スクラムガイド2010

謝辞

全般

スクラムは産業界で受け入れられたベストプラクティスに基づいている。それらは数十年かけて使用さ れ、実証されてきたものだ。後に、経験プロセス理論の一部となっている。ある時、Jim Coplienが Jeff Sutherlandに言った。「みんなスクラムが好きになるよ。追い詰められた時にいつもやってるこ となんだから」

人々

スクラムに貢献してくれた非常に多くの人たちのなかでも、最初の10年間に貢献してくれた人をまず挙 げよう。まず、Jeff Sutherland と Jeff McKenna。それから、Ken Schwaber と Mike Smith と Chris Martin。スクラムは、公式には OOPSLA 1995 で発表された。次の5年間では、Mike Beadle と Martine Devos が大きく貢献してくれた。それから、みなさん。みなさんの助けがなければ、今のように洗練されたスクラムは存在しなかった。

歴史

スクラムの歴史は、ソフトウェア開発の世界だと、すでに長い部類に入っていることだろう。まずお礼を述べたいのは、最初の試行錯誤の場である。Individual, Inc.、Fidelity Investments、IDX(現 GE Medical)に感謝したい。

翻訳

本ガイドは、Ken Schwaber と Jeff Sutherland による英語版の翻訳である。日本語訳は 角 征典 <[email protected]> が担当している。翻訳のレビューには、@takaesu0、@sunaot、 @kawaguti が参加してくれた。

目的

スクラムは1990年代初頭から複雑なプロダクトの開発に使用されてきた。本稿では、スクラムをプロダクト開発に使用する方法を説明する。ただし、スクラムはプロセスや技術ではない。正しくは、様々なプロセスや技術を取り込むことのできるフレームワークである。スクラムの役割は、複雑なプロダク開発が可能なフレームワークを提供することで、開発プラクティスの効果を相対的に浮き彫りにし、改善することである。

スクラムの理論

スクラムは「経験的プロセス制御」の理論を根拠としており、反復的で漸進的な手法を用いて、予測可能性を最適化し、リスクをコントロールする。経験的プロセス制御の実現は、3本の脚に支えられている。

1つ目の脚は透明性

透明性とは、成果に影響するプロセスの様子が、成果を管理する人の目に見えることを保証することである。また、目に見えるものは知られていなければならない。つまり、物事の完了とプロセスを検査する人が考える完了の定義は等しくなければならない。

2つ目の脚は検査

プロセスの様子は、受け入れ難い変化をすぐ検知できるように、頻繁に検査しておかなければならない。ただし、検査によってプロセス自体が変更されてしまうことを考慮に入れておくこと。必要となる検査の頻度がプロセスの許容を超えてしまってはいけない。幸いなことに、これはソフトウェア開発には当てはまらないようだ。プロセスに影響を与える要因としては、他にも、作業の成果を検査する人の技術や勤勉さなどがある。

3つ目の脚は適応

検査結果を見て、プロセスに不備があり、成果となるプロダクトを受け入れられないと判断した場合、検査する人はプロセスまたは成果物を調整しなければならない。調整はできるだけ早く行い、これ以上の逸脱は防がなければならない。
スクラムには検査と適応を行う場所が3つある。まず、デイリースクラムミーティングである。スプリントゴールに対する進捗を検査し、次の作業日の価値を最適化するように適応する。次に、スプリントレビューとスプリント計画ミーティングである。リリースゴールの進捗を検査し、次のスプリントの価値を最適化するように適応する。最後に、スプリントレトロスペクティブである。終了したスプリントを検査し、次のスプリントをより生産的に、充実した、楽しいものにする適応方法を決める。

スクラムの内容

スクラムフレームワークは、スクラムチームとその役割、タイムボックス成果物、およびルールで構 成される。
スクラムチームは、柔軟性と生産性の最適化を目指すものである。チームは、自己組織化しており、ク ロスファンクショナルであり、反復的に作業をする。スクラムチームには3つの役割がある。(1)スクラムマスター(チームがプロセスを理解し、追従することに責任を負う)、(2)プロダクトオー ナー(スクラムチームの作業の価値を最大にすることに責任を負う)、(3)チーム(作業をする)。チームは、スプリントの終了までに、プロダクトオーナーの要求をリリース判断可能なプロダクトの断片に変えるスキルを持った開発者の集まりである。
スクラムがタイムボックスを採用しているのは、規則的なリズムをつけるためである。タイムボックスには、リリース計画ミーティングスプリント計画ミーティングスプリントデイリースクラムスプリントレビュースプリントレトロスペクティブが含まれる。スクラムの中心はスプリントである。 スプリントとは、1ヶ月またはそれ以下のイテレーションで、一連の開発作業が継続する長さとなっている。すべてのスプリントで同じスクラムフレームワークを使用し、リリース判断可能な最終プロダクトのインクリメントを納品する。スプリント終了直後に次のスプリントを開始する。
スクラムは4つの主要な成果物を採用している。プロダクトバックログは、プロダクトで必要となる可能性のあるものすべてに優先度をつけた一覧である。スプリントバックログは、スプリントにおいて、プロダクトバックログを出荷判断可能なプロダクトのインクリメントに変えるために必要なタスクの一覧である。バーンダウンは、残ったバックログの項目を時間をかけて計測するためのものである。リリースバーンダウンは、リリース計画中に残ったプロダクトバックログの項目を計測するためのものだ。スプリントバーンダウンは、スプリント中に残ったスプリントバックログの項目を計測するものだ。
ルールは、スクラムのタイムボックス・役割・成果物を結びつけるものである。ルールについては、本稿の至るところで説明する。例えば、「チームメンバー(プロダクトバックログをインクリメントに変えることにコミットした人たち)だけが、デイリースクラムで話すことができる」などがスクラムのルールである。スクラムを導入するためのルールではなく、こちらからの提案については、「Tip」枠内で述べることにする。

スクラムに登場する役割

スクラムチームは、スクラムマスター、プロダクトオーナー、およびチームで構成される。スクラムチームのメンバーは「豚」と呼ばれる。 プロダクトオーナーはプロダクトバックログの「豚」である。チームはスプリント作業の 「豚」である。スクラムマスターはスクラムプ ロセスの「豚」である。その他の人はすべて 「鶏」である。鶏は「豚」に作業のやり方を命 令することはできない。鶏と豚とは、次のよう な物語に由来する。
あるとき鶏と豚が一緒にいた。鶏が「レストランを始めよう!」と言い出した。 豚はよく考えてからこう尋ねた。「レストランでは何を出すんだい?」 鶏は「ハムエッグだよ!」と答えた。 豚は言った。「それはやめておこうかな。私は身を削るのに、君はちょっと関わってるだけじゃない か」
Tip: ルールが規定していない部分 は、スクラムのユーザーは自ら何を行 うべきかを考えなければならない。問 題というものは頻繁に変更されるもの なので、最初から完全な解を見つけよ うとはしないこと。その代わり、何か を試してみて、その効果を確かめるこ と。検査と適応という仕組みは、経験 的に何かを獲得していくというスクラ ムの特性であり、あなたを導いてくれ ることだろう。

スクラムマスター

スクラムマスターは、スクラムチームがスクラムの価値、慣習、およびルールに忠実であるこ とを保証する責任がある。スクラムマスター は、スクラムチームと組織がスクラムを採用す ることを支援する。スクラムマスターは、コーチングやリーディングを使って、スクラムチームがより生産的に、より質の高いプロダクトを 作れるよう指導する。スクラムマスターは、スクラムチームが自己組織とクロスファンクションを理解し、実践することを支援する。スクラムマスターの役割は、スクラムチームにとって のサーバントリーダー(訳注:メンバーが成果 をあげるための支援や奉仕をするリーダーのこと)的な存在であると言える。
Tip: スクラムマスターは、顧客やマネージャーと一緒にプロダクトオーナーを具体的に特定する。そして、プロダクトオーナーにその役割を伝え る。プロダクトオーナーは、スクラム を使って価値を最適化する方法を知っておかなければならない。知らない場合は、スクラムマスターがプロダクトオーナーに説明する。

プロダクトオーナー

プロダクトオーナーは、プロダクトバックログ の管理に責任を持ち、チームの作業の価値を保 証する唯一の人物である。プロダクトオーナー は、プロダクトバックログを維持し、みんなに 確実に見えるようにする。どれが最優先項目な のかを知らせ、何に取り組めばよいのかが分か るようにする。プロダクトオーナーは1人の人 間であり、委員会であってはならない。助言したり影響を与えたりする委員会があってもよい が、項目の優先度を変更したい人はプロダクトオーナーを納得させなければならない。スクラムを導入する会社は、自社のこれまでの優先度付けや要 求の決め方に影響を受けるかもしれない。
Tip: スクラムマスターは、スプリント のタスクを行う開発者などのチームメンバーが兼任することもある。しか し、障害の除去かタスクの消化かのいずれかを選ばなければならない場合には、矛盾につながる。なお、スクラムマスターはプロダクトオーナーが兼任 してはならない。
プロダクトオーナーが成功するには、組織のみ んながプロダクトオーナーの決定を尊重しなけ ればならない。優先度を変えて作業をチームに 命じることは他の誰にも認められておらず、 チームにも、異なることを言う人の意見を聞く ことは許されていない。プロダクトオーナーの 決定は、プロダクトバックログの内容と優先度 で見ることができる。この見える化はプロダクトオーナーの努力にかかっており、そのためプ ロダクトオーナーの役割は困難だが、やり甲斐のあるものとなっている。
Tip: 商用開発の場合、プロダクトオーナーはプロダクトマネージャーに なるだろう。社内開発の場合は、自動的にビジネス組織のマネージャーにな るだろう。

チーム

開発者の集まりであるチームは、プロダクトバックログをスプリントごとに出荷判断可能な 機能のインクリメントに変える。さらに、チームはクロスファンクショナルである。つまり、 チームメンバーは、インクリメントを作成するのに必要なスキルをすべて持っていなければな らない。チームメンバーは、プログラミング、 品質管理、経営分析、アーキテクチャ、ユー ザーインターフェース設計、あるいはデータベース設計のような特化したスキルを持っている。しかし、チームメンバーが共有するスキル――つま り、要求を見出し、それを利用可能なプロダクトに変える技術――のほうが重要である場合が多い。 アーキテクトや設計者だからとコーディングを断るような人はチームにふさわしくない。新しいスキル を学んだり古いスキルを思い出したりする必要があっても、みんなが力を貸すこと。チーム内に肩書き はない。また、このルールに例外はない。チームには、テストやビジネス分析といったドメインに専念 するサブチームは存在しない。
Tip: プロダクトオーナーはチームメン バーが担当してもよい。開発業務を 行っても構わない。しかし、責任が増 えることによって、ステークホルダー と作業をするプロダクトオーナーの能 力が下がってしまうかもしれない。な お、プロダクトオーナーはスクラムマスターであってはならない。
さらに、チームは自己組織である。誰も――スクラムマスターでさえも――プロダクトバックログを出 荷可能な機能のインクリメントに変える方法をチームに伝えることはない。チームは自身でこれを解決 する。個々のチームメンバーはその専門知識をすべての問題に適用する。その結果生じるシナジーに よって、チーム全体の効率と効果が向上する。
チームに最適な規模は、7±2名である。チームメンバーが5名未満の場合、相互作用が少なく、生産性 の上昇が低い。さらに、スプリント中に技術的制約に遭遇したり、リリース可能なプロダクトを納品で きなかったりするかもしれない。チームメンバーが9名を超える場合、単純に調整する量が多くなって しまう。大きなチームは、経験的プロセスを管理するにはあまりにも複雑である。とはいえ、この範囲 に入らない規模のチームが成功した例に我々は何度か遭遇したことがある。プロダクトオーナーとスク ラムマスターは、スプリントバックログの作業に関わる豚でないのであれば、人数には含まない。
スプリントが終了すると、チーム構成が変わることもある。チームメンバーが替わるたびに自己組織に よって獲得した生産性は低下する。チーム構成を変更するときは注意すべきである。

タイムボックス

スクラムのタイムボックスには、リリース計画ミーティングスプリントスプリント計画ミーティン グスプリントレビュースプリントレトロスペクティブ、およびデイリースクラムがある。

リリース計画ミーティング

リリース計画ミーティングの目的は、スクラムチームや組織全体が、理解した上でコミュニケーション できる計画やゴールを確立することである。リリース計画は「どのようにすれば最良の方法でビジョン を成功プロダクトに変えることができるのか。どのようにすれば求められる顧客満足やROIを満たす (あるいは超える)ことができるのか。」といった疑問に答えるものである。リリース計画では、リ リースゴール、プロダクトバックログの最優先項目、主なリスク、全般的なフィーチャ、およびリリー スに含む機能を決める。さらに、納品予定日、何も変更が発生しなかった場合にかかるコストも決めて おく。組織は進捗を検査して、スプリントごとにリリース計画を変更できる。
スクラムではプロダクトを反復的に構築するため、各スプリントでプロダクトのインクリメントを作成 することになる。このとき、最も価値があり、最もリスクの高いものから着手する。スプリントのたび に、プロダクトのインクリメントが追加される。インクリメントは、プロダクトの出荷判断可能な断片 である。十分にインクリメントを作成し、出資者にとって価値のある役立つものとなったら、プロダク トをリリースする。
ほとんどの組織には、既にリリース計画プロセスが存在するだろう。しかし多くの場合、その計画はリ リースの初期に行い、時間がたっても変更することはない。スクラムリリース計画では、全体のゴールや成果物を定義する。通常、このリリース計画には、従来のリリース計画に費やすわずか15~20%の 時間しかかからない。ただし、スクラムのリリースは、スプリントレビューやスプリント計画ミーティ ングのたびにジャストインタイムで計画を立てる。さらに、デイリースクラムミーティングでは、毎日 ジャストインタイムで計画を立てる。合計すると、スクラムのリリースへの取り組みは、おそらく伝統 的なリリース計画への取り組みよりも、わずかに手間がかかることになる。
リリース計画では、リリースに向けてプロダクトバックログを見積もり、優先度付けをしなければなら ない。そのために有効なテクニックはスクラム以外にも数多くあり、それらを使うことも有用である。

スプリント

スプリントは1つのイテレーションである。スプリントはタイムボックスになっている。スクラムマス ターは、スプリント中にスプリントゴールに影響する変更が行われないことを保証する。チーム構成と 品質目標は、どちらもスプリント中は一定である。スプリントは、スプリント計画ミーティング、開発 作業、スプリントレビュー、およびスプリントレトロスペクティブを含んでおり、それらで構成されて いる。スプリントは間隔を置かずに次々と開始する。
プロジェクトとは、何かを達成するために使用するものだ。ソフトウェア開発では、プロダクトまたは システムを構築するために使用する。すべてのプロジェクトは、構築するものの定義、構築する計画、 計画に沿って行う作業、および最終プロダクトで構成される。すべてのプロジェクトには地平線があ る。つまり、計画に適した時間枠である。地平線が遠すぎると、定義が変わったり、様々な変数が入っ てきたり、リスクが大きくなりすぎたりする。スクラムは、最大1ヶ月のプロジェクトのためのフレー ムワークである。これでも十分に複雑であり、これ以上長くなるとリスクが高い。プロジェクトの予測 可能性は、少なくとも月次でコントロールしなければならない。コントロール不能や予測不能のリスク は、少なくとも月次で抑えるようにしなければならない。
スプリントはタイムボックスが終わる前に中止 できる。プロダクトオーナーだけがスプリント を中止する権限を持つ。このとき、ステークホ ルダー、チーム、あるいはスクラムマスターの 意見を聞いてもよい。それでは、スプリントが 中止されるのはどんな状況だろうか?スプリン トゴールが古くなった場合には、マネジメント がスプリントを中止するかもしれない。会社の 方向性が変わったり、市場や技術の状況が変 わったりする場合にも、中止する必要があるか もしれない。一般的に、つじつまが合わない状 況になったら、スプリントを中止したほうがよい。しかし、スプリントの期間は短く、中止したからといってそれほど意味をなすことはない だろう。
Tip: チームが作業が多すぎることに 気づいたときは、プロダクトオーナー に会って、スプリントに選んだプロダ クトバックログのスコープを削除した り縮小したりしてもらうこと。逆に時 間が余ることに気づいたときは、プロ ダクトオーナーと追加するバックログ を選ぶこと。
スプリントが中止になったら、プロダクトバッ クログの完成あるいは「完了(done)」した項目をレビューする。出荷判断可能なインクリメントになっていれば、受け入れられるだろう。その他 の項目は、最初の見積もり数値のままプロダクトバックログに戻される。それらにかかった作業は失わ れたものとなる。スプリントの中止は、別のスプリントを開始するためにスプリント計画ミーティング を開かなければならないため、リソースを消費する。スプリントの中止はチームにとってトラウマにな ることが多い。しかし、中止はめったに起きないことである。
Tip: チームがスクラムを始めるとき は、不確実なことに惑わされない学習 期間を2週間とるとよい。2週間のス プリントであれば、インクリメントを2つ合わせることで、他のチームと同 期をとることもできる。

スプリント計画ミーティング

スプリント計画ミーティングでは、イテレーションを計画する。1ヶ月のスプリントの場合、ミーティ ングは8時間のタイムボックスとなる。もっと短いスプリントの場合は、スプリントの長さに比例して 時間を割り当てる(例えば、スプリントが2週間の場合は、スプリント計画ミーティングを4時間にす る)。スプリント計画ミーティングは2部構成である。第1部では、スプリントで何を行うかを決め る。第2部(1月のスプリントだと4時間のタイムボックス)では、決まった機能をプロダクトインクリ メントにどのように組み込むかをチームで考える。
スプリント計画ミーティングは2部構成である:「What?」部と「How?」部だ。なかには、この2つ を一緒に行うスクラムチームもある。最初の部分では、スクラムチームは「What?」の質問に取り組 む。プロダクトオーナーは、プロダクトバックログの最優先項目をチームに提示する。ここで一緒に次 のスプリントで開発する機能を考える。ミーティングへのインプットは、プロダクトバックログ、プロ ダクトの最新インクリメント、チームの許容量、およびチームの過去の実績である。バックログの量は チームの責任で選択する。次のスプリントで遂行できるかどうかを判断できるのはチームだけである。
プロダクトバックログを選択したら、スプリントゴールを丹念に設定する。スプリントゴールはプロダ クトバックログを導入することで満たす目的である。これは、チームがインクリメントを構築する理由 のガイドとなるステートメントである。スプリントゴールはリリースゴールの部分集合である。
スプリントゴールを設定するのは、チームが自由に機能を扱えるようにするためである。例えば、上記 のスプリントのゴールは次のような感じになる:「安全で復元可能なトランザクションミドルウェアを 使って、クライアントアカウントの修正機能を自動化する」チームが作業をする上で、このゴールを覚 えておく。ゴールを満たすために、チームは機能と技術を実装する。予測したよりも作業が困難である と判明した場合、チームはプロダクトオーナーと相談して、一部の機能を実装する。
スプリント計画ミーティングの第2部では、チームは「How?」の質問に取り組む。スプリント計画 ミーティングの第2部(1ヶ月のスプリントだと4時間)でチームは、スプリント計画ミーティング (What)で選択したプロダクトバックログをどのように完了インクリメントに変えるかを考える。通 常、チームは、作業の設計から始める。そして、タスクを見つけ出す。これらのタスクは、プロダクト バックログを動くソフトウェアに変えために必要となる詳細な作業である。タスクは、1日未満で行う ことができるように分解すべきだ。タスク一覧はスプリントバックログと呼ばれる。チームは自己組織 化し、スプリント計画ミーティングまたはスプリント中にジャストインタイムで、スプリントバックロ グの作業を請け持つ。
スプリント計画ミーティングの第2部では、プ ロダクトオーナーはプロダクトバックログを明 確にし、トレードオフを支援する。作業が多す ぎたり少なすぎたりした場合は、チームはプロダクトオーナーと交渉して、プロダクトバック ログを調整する。技術やドメインのアドバイス を求めるために、チームは他の人をミーティン グに招待するかもしれない。新しいチームの場 合、チームとしてうまくやっていけるかどうか は、このミーティングで分かる。チームはチー ムを頼らなければならないことに気づく。これ に気づけば、チームは自己組織を始め、真のチームとしての特性を持ち、そのように振る舞えるように なる。
Tip: 通常、スプリント計画ミーティングでは、スプリントバックログの 60~70%しか出てこないだろう。残りはあとで対応する。あるいは、とり あえず大きな見積もりをしておいて、 あとで分解する。

スプリントレビュー

スプリントの最後にスプリントレビューを開く。1ヶ月のスプリントの場合、タイムボックスは4時間 となる。もっと短いスプリントの場合は、スプリントの長さに比例して時間を割り当てる(例えば、ス プリントが2週間の場合は、スプリントレビューを2時間にする)。スプリントレビューでは、スクラ ムチームとステークホルダーが、完了した項目について協議する。この結果とスプリント中のプロダク トバックログへの変更に基づいて、次に完了すべきことを協議する。これは非公式のミーティングであ り、機能のプレゼンテーションなどを行って、次に行うことの協働を促進する。
このミーティングには、少なくとも次の要素が含まれている。プロダクトオーナーは、何が完了した か、何が完了しなかったかを識別する。チームは、スプリント中にうまくいったこと、遭遇した問題 点、およびどうやって問題を解決したかを議論する。その後チームは、完了した作業のデモンストレー ションを行い、質問に答える。プロダクトオーナーは、現状のプロダクトバックログについて話し合 う。そして、様々なベロシティを仮定して、有望な完成日を予測する。その後みんなで、これまで見た こと、そしてそれが次に行うべきことにどんな意味があるかを議論する。スプリントレビューは、後の スプリント計画ミーティングにとって価値のあるインプットとなる。

スプリントレトロスペクティブ

スプリントレビューと次のスプリント計画ミーティングの間に、スクラムチームはスプリントレトロス ペクティブを開く。1ヶ月のスプリントの場合、タイムボックスは3時間となる(スプリントの長さに 比例して時間を割り当てる)。このミーティングでスクラムマスターは、次のスプリントをより有効 で、より愉快にするために、スクラムプロセスフレームワークとプラクティスでチームが開発プロセス を改善するように促す。レトロスペクティブで使用するのに有用な技術が、多くの書籍で述べられてい る。
レトロスペクティブの目的は、先のスプリントを人々、関係、プロセス、ツールの面から検査すること である。検査は、うまくいった主要な項目と、違ったやり方をすればもっと良くなったかもしれない項 目を識別して優先付けをすべきである。ここには、スクラムチームの構成、ミーティング規約、ツー ル、「完了」の定義、コミュニケーションの方法、およびプロダクトバックログの項目を「完了」に変 えるプロセスが含まれる。スプリントレトロスペクティブの終了までに、スクラムチームは、次のスプ リントで導入できる実行可能な改善を特定すべきだ。こうした改善が経験的な検査への適応となる。

デイリースクラム

チームは、デイリースクラムと呼ばれる15分のステータスミーティングで毎日顔を合わせる。スプリン ト中のデイリースクラムは、同じ時間、同じ場所で開かれる。チームメンバーは次のことを説明する:
  • 前回のミーティングから今日までに行ったこと
  • 次回のミーティングまでに行うこと
  • 何かを行う上で障害となること
デイリースクラムは、コミュニケーションを改善し、その他のミーティングを除去し、開発の障害を特 定して排除し、迅速な意志決定を強調して促進し、みんなのプロジェクト知識のレベルを向上するもの である。
スクラムマスターは、チームが確実にミーティングを開くようにする。チームは、デイリースクラムを 行うことに責任を負う。スクラムマスターは「簡潔に話す」というルールを実施し、デイリースクラム が短くなるようにチームに伝える。さらにスクラムマスターは、「デイリースクラムでは、鶏は話すこ とを許されない。どのような方法でも口出しは許されない」というルールも実施する。
デイリースクラムは進捗報告会議ではない。プロダクトバックログの項目をインクリメントに変える人 々(すなわちチーム)以外のためのものではないのだ。チームは、スプリントゴールとプロダクトバッ クログの項目にコミットする。デイリースクラムは、スプリントゴールに向けた進捗の検査である(3 つの質問)。通常、スプリントで行う作業に適応するためのミーティングをこの次に開く。チームが ゴールを達成する見込みを最適化するためである。これが、スクラムの経験的プロセスにおけるカギと なる検査と適応のミーティングである。

スクラムの成果物

スクラムの成果物は、プロダクトバックログ、リリースバーンダウン、スプリントバックログ、および スプリントバーンダウンである。

プロダクトバックログとリリースバーンダウン

チームが開発しているプロダクトへの要求はプロダクトバックログに一覧されている。プロダクトオー ナーは、プロダクトバックログ、その内容、利用可能性、および優先度に責任を負う。プロダクトバッ クログは永遠に完成しない。最初に着手するときは、よく知られて、よく理解されている要求だけが並 べられている。プロダクトバックログは、プロダクトや環境に合わせて進化する。プロダクトが適切 で、競争力のある、有用なものになるには何が必要かを特定するために、バックログは絶えず変化しな ければならない動的なものである。プロダクトが存在する限り、プロダクトバックログも存在する。
プロダクトバックログには、成功するプロダクトを開発し、ローンチするために必要なものすべてが表 されている。すべてのフィーチャ、機能、技術、要望、およびバグフィックスなど、将来のリリースで プロダクトに加えられる変更の一覧となっている。プロダクトバックログの項目には、詳細、優先度、 見積もりの属性がある。優先度は、リスク、価値、および必要性を考慮して決定する。こうした属性を 算定するための技術が数多くある。
プロダクトバックログは優先度でソートする。 優先度の高いプロダクトバックログはすぐ開発 に入ることができる。優先度が高いほど、緊急 度が高いほど、より考えられたものほど、より 多くの同意が得られたものほど、価値があると 判断する。優先度の高いバックログには、優先 度の低いバックログよりも明確で、情報の記述 が多い。より良い見積もりとは、明確さと情報 の多さで決められる。項目の記述ができるよう になるまで、優先度は低く、情報は少ないままである。
プロダクトが使用され、価値が増加し、市場がフィードバックを提供するようになると、プロダクト バックログは大きくて網羅的な一覧に変わる。要求の変化はとどまることを知らない。プロダクトバッ クログは生きたドキュメントなのだ。ビジネス要求、市場、技術、および人材の変化は、プロダクト バックログの変化を引き起こす。手戻りを最小化するには、最優先項目だけを記述しなければならな い。次のスプリントでチームが携わるプロダクトバックログの項目は、スプリント期間内に完了するよ う分解されており、程よい粒度になっている。
複数のスクラムチームが同じプロダクトに取り 組むことがよくある。この場合も、1つのプロ ダクトバックログで、これから手がけるプロダ クトの作業を記述する。このとき、プロダクト バックログの項目をグループ化する属性を採用 する。グループ化には、フィーチャセット、技 術、あるいはアーキテクチャを使い、スクラム チームの作業を整理する。
リリースバーンダウンは、プロダクトバックロ グの残工数の合計を、時間軸でグラフ化したも のである。工数の単位は、チームや組織が決定 した作業の単位になる。時間軸の単位は、通常 はスプリントになる。
プロダクトバックログの項目の見積もりは、最 初はリリース計画で算出し、あとで作りながら 算出していく。プロダクトバックログの調整で は、それをレビューし、改訂する。ただし、変 更はいつでも行うことができる。チームは、す べての見積もりに責任を負っている。理解やト レードオフを助けることで、プロダクトオー ナーがチームに影響を及ぼすことがあるかもし れない。しかし、最終的な見積もりはチームが 行う。プロダクトオーナーは、常に更新される プロダクトバックログやリリースバックロクグバーンダウンを最新状態で維持管理しておかねばならない。トレンド線については、残作業に基づいて 引くことができる。
Tip: 通常、プロダクトバックログの 項目は、ユーザーストーリーで記述す る。ユースケースの使用も適切だが、 それは生命に関するソフトウェアや基 幹ソフトウェアに使用するとよい。
Tip: 通常、スクラムチームは、スプ リントの10%の時間を使ってプロダ クトバックログを上記の定義に合うよ うに調整する。程よい粒度になった ら、プロダクトバックログの最上位に ある項目(優先度が最も高く、価値が 最も高い項目)を、1つのスプリント に入るように分解する。この調整プロ セスで、項目を分析し、吟味する。ス プリント計画ミーティングでは、これ らの最優先項目は十分に理解されてお り、簡単に選ぶことができる。
Tip: 受入テストもプロダクトバックロ グの項目の属性としてよく使用する。 これは、プロダクトバックログの項目 が完成したときに行わなければならな いテスト可能な詳細なテキスト記述で ある。

スプリントバックログとスプリ ントバーンダウン

スプリントバックログは、プロダクトバックロ グの項目を「完了」インクリメントに変えるた めにチームが行うタスクで構成される。その多 くは、スプリント計画ミーティングで作られ る。これは、スプリントゴールを達成するのに チームが必要と考えた作業のすべてである。ス プリントバックログの項目は分解されていなく てはならない。変化の具合がデイリースクラム で理解できれば、十分に分解できているといえ る。項目にかかる作業時間は、通常は、1日程 度である。
チームは、スプリント中に追加されるスプリン トバックログだけでなく、スプリントバックロ グ全体に対して常に修正を加えていく。個別の タスクに落とし込むなかで、必要なタスクや時 間の多寡に気づくかもしれない。新しい作業が 必要になったら、チームはスプリントバックロ グに作業を加える。タスクの着手時や完了時に は、タスクの見積り残作業を更新する。タスク が不必要であれば削除する。スプリント中にス プリントバックログを変更することができるのはチームだけである。内容や見積もりを変更することが できるのもチームだけである。スプリントバックログは、よく目立つところに置かれ、スプリント中に チームが遂行する作業をリアルタイムに反映したものであり、チームが占有するものである。
スプリントバックログバーンダウンは、スプリントバックログの残作業の量を時間軸で表したグラフで ある。このグラフを作成するには、バックログの見積もりを毎日合計して、残作業を算出しなければな らない。スプリントの残作業は、スプリントバックログに残された作業の合計である。この合計値を毎 日追跡して、残作業を示すグラフを作る。グラフ上の点を線で結ぶことで、チームはスプリントの進捗 を管理することができる。スクラムでは、期間は考慮しない。残作業と日付だけが対象となる変数であ る。
スプリントの目的に関係するスクラムのルール がある。それは、出荷判断可能な機能のインク リメントを納品するために、「完了」の定義を 作ることである。
Tip: 組織によっては、完了するより も多くの作業がバックログに加えられ ることもある。このときのトレンド線 は、水平か、あるいは上方へ傾斜する ことになる。これを補い、かつ透明性 を確保するには、作業の増減に応じ て、新しい下限を設けるとよい。下限 は、変更が著しいときにだけ手を加え るようにし、十分にドキュメント化し ておくようにする。
Tip: 初めて一緒になるチームだった り、プロダクトをよく知らなかった り、基盤技術をあまり理解していな かったりすると、リリース初期の2~3 スプリントのトレンド線については、 信頼度が低いかもしれない。
Tip: バーンダウンチャートは、可能な 限り、大きな模造紙に手書きで描い て、チームの作業場所に貼り出しておくこと。Excelなどのツールよりも大 きく目につくチャートのほうが、チー ムが目にする可能性が高い。

完了

スクラムでは、チームはすべてのスプリントでプロダクト機能のインクリメントを作らなけれ ばならない。このインクリメントは出荷判断可 能なものでなければならず、プロダクトオーナーが直ちに導入を決定できるものでなければならない。 そのためには、インクリメントはプロダクトの完全な断片でなければならない。そして、それが「完 了」していなければならない。インクリメントは、先行するすべてのインクリメントに付加するもので あり、十分にテストされたものであり、すべてが一緒に動くものでなければならない。
機能が完了しているというのは、プロダクト開発の場合、少なくともコードがクリーンで、リファクタ リングされていて、ユニットテストが通り、実装が終わり、受入テストが通ったものだと考えるかもし れない。あるいは、実装が終わっただけのものだと考える人がいるかもしれない。「完了」の定義が分 からないと、経験的プロセス制御の2本の脚が機能しない。誰かが「完了」について説明すれば、みん なが「完了」の意味を理解するはずだ。
完了とは、チームがスプリントでプロダクトバックログの項目を「作業中(doing)」にするときの意 味を定義するものである。ドキュメントが含まないプロダクトでは、「完了」の定義にドキュメントが 含まれていない。完全な「完了」インクリメントでは、すべてのプロダクトバックログの項目に対し て、分析、設計、リファクタリング、プログラミング、ドキュメント、およびテストが行われる。テス トには、ユニットテスト、システムテスト、ユーザーテスト、回帰テスト、それから、パフォーマンス テスト、スケーラビリティテスト、セキュリティテスト、統合テストなどのような非機能テストも含ま れる。完了には国際化も含まれる。なかには完了の定義をすべて満たせないチームもある。そのとき は、プロダクトオーナーに説明しなければならない。残作業については、プロダクトを導入する前に完 了しなければならないだろう。

まとめ

1つのスプリントで完全なインクリメントを構 築することができない組織もある。それは、自 動テストのインフラがなくてテストを終了でき ないからかもしれない。その場合、インクリメ ントに2つのカテゴリーを作成する。「完了」 作業と「未完了」作業である。「未完了」作業 は、インクリメントの一部であり、あとで完了 しなければならない。プロダクトオーナーは、 スプリントの終了時に検査するものを正確に 知っている。プロダクトオーナーは「完了」の 定義を理解しており、インクリメントがその定義に合っているかを確かめればよい。「未完了」作業 は、「未完了作業」という名でプロダクトバックログの項目に追加する。リリースバーンダウンのグラ フに正しく反映するためである。これによって、リリースへの進捗の透明性を確保できる。スプリント レビューでの検査と適応は、この透明性と同じくらい正確なものである。
Tip: 「未完了(Undone)」作業は、 「未完了作業(Undone Work)」あ るいは「実施検討作業 (Implementation Work)」と呼ば れるプロダクトバックログの項目に蓄 積する。こうした作業を蓄積しておく と、プロダクトバックログのバーンダ ウンがきちんと停滞するようになる。
例えば、チームがプロダクトバックログの項目に、パフォーマンステスト、回帰テスト、スタビリティ テスト、セキュリティテスト、および結合テストを行うことができなければ、分析、設計、リファクタ リング、プログラミング、ドキュメンテーション、ユニットテスト、およびユーザーテストが完了した 作業との比率を計算できる。では、仮に「完了」作業が6個、「未完了」作業が4個の割合だとしよ う。プロダクトバックログの項目を6個終了したら(チームは「やり方」を知っている前提で見積もっ ている)、その時点で4個の「未完了」プロダクトバックログの項目を追加する。
スプリントを重ねるごとに、各インクリメントの「未完了」作業は蓄積されるため、プロダクトのリ リース直前にこれらの残作業に取り組まなければならない。残作業は、組織の特性に左右されるため指 数関数になることもあるが、基本的には直線的に蓄積される。こうした「未完了」作業を消化するため のリリーススプリントをリリース直前に追加する。スプリントの数は、「未完了」作業の蓄積が線形で なければ、予測不能である。
最終更新 1yr ago